毒舌王子に誘惑されて
「はぁ!? ちょっと美織さん。 なに、トチ狂ったこと言ってんすか?

あの、裕司さんでしたっけ? この人、仕事のし過ぎで、今ちょっとおかしいんだと・・」

葉月君が焦ってフォローしようとしたけど、裕司はそれを無視して私に笑いかけた。
昔と変わらない、相手のことばかり思い遣る優しい笑顔で。

「そっか。 今度は・・迷わない相手?」

裕司は明るい声で言うと、私をからかうようにちらりと葉月君に視線を向ける。

私は葉月君の腕を掴んでいる右手にぎゅっと力をこめて、裕司の問いに迷わずに頷いた。

「それなら、良かった。幸せになれよ」

裕司は私達に背を向けると、振り返らずに手を振った。


小さくなっていくその背中を見送っていた葉月君がぽつりとこぼした。

「俺、あの人よりいい男になれる気が全然しないんですけど・・・
美織さん、男の趣味悪いっすよ」

「うん。それはそうかも・・」

「ーーちょっとはフォローしてくださいよ」

葉月君が拗ねたような顔をするので、私は右手を葉月君の腕から手へと滑らせて、彼の手をきつく握り締めた。


「後悔しませんか? 引き返すなら今ですよ」

そう言った葉月君に私は自信満々に微笑んでみせる。

「引き返さないよ。 裕司はね、私に取って王子様みたいな人だった。
私は与えてもらうばっかりだったの」

「贅沢ですね。王子様のどこに不満があるんですか?」

「不満は何もないけど・・私は王子様の白馬に乗せてもらう人生より、助けあって、支え合って、一緒に成長していける人と自分の足で歩いていきたいんだ。

葉月君に出会って、ようやく気がついた」

この人の力になりたい。
この人を笑顔にしたい。
この人を幸せにしたい。

そんな気持ちを抱いたのは、葉月君が初めてだった。

この気持ちを恋と呼ばないのなら、一体何が恋なんだろうか。

どうして気づかないでいられたんだろう。

私はもうとっくに恋に落ちていたのに。

こんなにも、葉月君に恋をしているのに。
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