囚われのサンドリヨン ~御曹司様のご寵愛~【番外編を追加しました】
昨日こっそり、残りの借金を彼の口座に振り込んだ。
住民票はまだ移せない。足取りを知られてしまうから。
会社にはすごい迷惑をかけてしまうが、向こうに着いたら課長には謝罪を入れるつもりだ。

そして最も気に病んだのは、彼に伝えるメッセージ。
黙って消えればきっと傷つく。信頼を裏切られたと思うだろう。

だから私は2ヶ月間、いっぱいいっぱい考えて、苦手な手紙を書き添えた。

最初は傷つくかもしれない。きっと怒ってしまうだろう。

だからせめて。
2ヶ月間彼を偽ったせめてものお詫びに、本心だけを綴っておいた。

頭のいい、繊細で聡明な彼ならば、いつかはきっと分かってくれると信じて。


最後まで見届けたかったのは、ひとえに私の我儘だ。
1日でも長く側にいて、あの人の愛を受けたいと。
花嫁には悪いけれど。最後の一夜、ヒトの物になる直前まで、彼の腕に抱かれたかった。

昨夜1つだけ約束をした。

『式が終わって落ち着いたら、必ずあの部屋に来て』

せがんだ私に、彼は怪訝な顔をした。

『あたらしい住まいじゃなくか?……まあ別に構わないが……』

彼は本当に部屋を借りてくれていた。
1度も入ることのない部屋を。


最後の夜は、あの狭いシングルベッドで身を寄せあって、手を繋いで静かに眠りった……


優しい優しい、夜だった。
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