若の瞳が桜に染まる
「お!屋敷に花畑ってどうかと思ってたけど、案外良い感じじゃん」

そう言って蘭の近くで庭を眺めだしたのは旬。

来てほしくない奴が近寄って来たと、蘭は舌打ちをする。

「てか、蘭のそれ何?
木?」

やはり旬は、蘭の持つ鉢に興味を持った。
じっと見られるのが気に食わず、蘭は体を背けた。

「何でもねーよ」

そう適当に答えたが、旬はこの辺の勘は鋭く、すぐに何か閃いてニヤニヤした笑みを浮かべた。

「まさかお嬢に貰ったの?
へぇー…、仲良くなってんじゃん!」

よかったねー、と素直に喜べない言葉をかけられ、その笑みに蘭はカチンと来た。

日和と仲良くなったつもりなどない。
それでも、この木をくれと言ったのは事実で、仲良いと思われても仕方のないことだとはわかっていた。

感情と行動の不一致が、蘭を歯痒くさせる。

「馬鹿にすんじゃねー!
これは金のために貰ったんだ」

そう言い捨てて、すれ違い様にわざと肩をぶつけて部屋を出た。

「え、金のためってどういうこと?」

誰にも聞いてもらえなかった旬の言葉は、虚しく宙へと消えた。

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