若の瞳が桜に染まる
その後ろ姿に焦りが大きくなっていく。
このままじゃ本当にまずいと。

この空気を屋敷にまで持ち込みたくない。家につく頃にはいつものように柔らかい雰囲気に包まれていたい。

そう思った我久は、とりあえず何でもいいから話しかけてみた。

「えっと…、今日は楽しそうにしてたね」

…。

なんでこんな嫌みったらしい言い方しかできないんだ、…俺。

楽しかったねで良かったのに、楽しそうにしてたなんて言ったら、楠井と仲良くして楽しそうだったねって嫌味を言ってるみたいだ。
そんなことが言いたい訳じゃないのに、うまくいかない。

泣きたくなる…。

「うん。
我久も、楽しそうだったね」

そのまま返されたことで改めてわかる、この突き放された感じ。

だがきっと、日和の目には、本当に我久も楽しんでいたように見えたのだろう。実際、そう見えるように振る舞っていたのだが、決して嫌味ではなく言っていることが、逆に深く鋭く突き刺さる。

「そうだね…。

…」

「…」

また沈黙。

これ以上喋っても、悪い方向にしか転ばない気がした我久は、黙ることにした。

こんなんじゃ、楠井に送ってもらえば良かったと思われても仕方ない。
何をやってんだ、俺は。
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