若の瞳が桜に染まる
楠井に抱えられて連れ出された日和は、部屋の外の光景に目を疑った。
廊下のあちこちで火の手があがっている。

このまま放っておけば、我久の閉じ込められた部屋が炎に包まれることなど、簡単に想像できた。

「離して、楠井さん。
我久を助けなきゃ…。我久……!」

遠ざかるその扉に向かって手を伸ばし、日和は叫び続けた。

「そんなに叫んだら煙吸っちゃうよ?
喉を火傷するかもしれない」

淡々と廊下を進み、旅館の外へと日和を運ぶ楠井。手荒な手段をとっておきながら、笑って日和のことを心配していた。
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