若の瞳が桜に染まる
旅館の外まで連れていかれ、炎に全体を包まれる旅館を日和は目にした。真っ黒な煙がのぼり、あちこちで柱が崩れ落ちる。

あまりの惨劇に、楠井に下ろされてもその場にへたりこむしかなかった。

「我久…。
…蘭さん、旬兄…。

…いやー!」

日和の悲痛な叫び声が、燃え上がる炎の音とともに響き渡った。

無意識に立ち上がり、旅館に戻ろうとするも、簡単に楠井に腕を掴まれた。

「日和の戻る場所はそっちじゃないよ」

何か薬品の臭いのするガーゼを口元にあてられ、日和は意識を失った。
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