若の瞳が桜に染まる
春の風にのって、木々の香りが漂う。
木漏れ日の中、我久は少し前を歩く日和についていっていた。

森の中を歩くことに慣れていない我久は、何度も足をとられてふらついていた。

「まだつかないの?」

「…もう少し」

日和の言うもう少しは、一体あとどれくらいの時間や距離を表しているのか。
もうこのやり取りも数回繰り返していた。

日和の進む先は、より一層草木に囲まれた場所となり、もはや道とは呼べなくなっている。

そんな人が踏みいってはいけないような道を歩くことに十分程。
急に辺りが開けてきた。
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