逆光




「誰も利益を得ないようにすればいいのになぁ。」


そうすれば、きっと戦争はなくなって、世界が平和になるのに。


そんな、シュークリームのカスタードより甘い、ふわふわとしたことを言った目の前の男に和泉は盛大に顔を顰めた。
相変わらず気に食わない男だ。
和泉の剣呑な雰囲気に気付いたのか、男は普段は凛々しい眉を下げ、困ったように笑った。



「寺田さん、頭良いくせに馬鹿ですね。会社も個人も社会も国も、利益が無きゃ上手く回らないものですよ。」

「そうじゃなくて、政治は大勝ちしちゃいけないんじゃないかと俺は思ってだな。程々に、こっちも何かの痛手をもらった状態で僅かながらの勝ちの状態じゃなきゃ、相手の反感を煽るだけだ。」


いかにも好青年らしく、白い歯を見せながら男は言う。
その声もまた模範的な爽やかな青年のものだ。

和泉はミルクコーヒーを啜りながら湧き上がるイライラを胸に溜める。



「それは確かに国家間の関係としては良いものでしょうね。お互いに大損をしながら、勝った方は大して利益は得られなかった。負けた方はある程度の悔しさはあれど、最終的な両者の利益差は小さい。そこまでの憎しみは抱かれないでしょうが、」


言葉を区切った和泉は一呼吸置いて冷めた目で目の前の男を見つめた。








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