逆光







寺田総馬の第一印象は犬みたい、だった。

和泉は学食でサーモンとアボカドのサラダを食べながら斜め前に座るツンツンとした黒髪の青年を見ていた。

彼はいかにも若者らしくカツ丼をモリモリ食べている。
その顔には常に笑みがあり爽やかだ。
まさに柴犬。
いつでも何をしてても幸せそうに見える柴犬にそっくりだ。



「和泉さんはオシャレなものを食べるんだな。」

「そうですかね。」


自分ではよく分かりません、と言っておく。
サーモンとアボカドの組み合わせは和泉のお気に入りだ。
まったりとしたアボカドとサーモンはよく合う。


「もしかして、君が和泉さんか?」


十分前、どうやって接触しようか考えていた相手からそう声をかけられた。

藍色のカーディガンに白のクロップドパンツを履いた青年は人懐っこい笑顔を浮かべていた。
寺田総馬は爽やか、の一言で表すのがピッタリな男だった。


「そうです。」

「話には聞いてたけど本当にべっぴんさんだなぁ。」


べっぴんさん。
そんな言葉を使う人初めて見た、なんて思いながら和泉は寺田総馬を見つめる。


「俺の友達がな、和泉さんに話しかけられたってすごくはしゃいでたんだ。でも俺のことを聞くのが目的だって分かってショックだったとかで。」


思いっきり腹パンされたよ。腹筋鍛えてて良かった、なんてニカッと笑って言われた。

ここは何て返すべきか。
はぁ、そうですか、と応えながら和泉は考えた。


「昼はまだか?良かったら一緒に食べないか?」


こちらをのぞきこんでくるクリクリとした瞳を見つめる。

黒い瞳。
精悍な顔立ち。
研究者というよりは、スポーツマンと言われた方が納得できる。

いいですよ、なんて素っ気なく応えた。










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