逆光





和泉にとって物事の判断基準は自分にとって得か損かだ。
決して他人のために動こうとなんかしないし、とことん自分本位だ。
和泉の彼氏である寺田さんとやらもよくこの子に付き合ってるなぁ、と思う。


だが、彼女のそのスタンスのブレなさは気に入っている。
素直すぎるのは美徳ではない。
自分本位な生き方は褒められたものではない。

だけど、世界中で誰か一人くらい、とことん自分勝手に生きててもいいんじゃないかと翔は思う。

私は私のために生きてるの、という主張。
あなたの為よ、も無償の愛もない。
上っ面だけの善意もない。

ハナから他人の為に生きてやるつもりのない生き方は、見てるぶんには面白かった。


「翔、聞いてる?」


話を聞き流しているのが分かったのか、少し不機嫌な声で和泉が問いかける。
キッと上がった眉毛。

年相応に大人びた彼女は、相変わらず綺麗だった。
彼氏が出来ても未だに告白の類は絶えないらしい。


「本当に、自分のことでいっぱいいっぱいになったら、とことん自分勝手に生きていいんだからね」


和泉のその忠告に翔は目を丸くする。
パチパチと瞬きを繰り返した後。
ハハッと、耐え切れなかったように笑った。


「いっぱいいっぱいじゃない時でも自分勝手に生きてる和泉に言われてもなぁ」


ケラケラと笑う翔にムッとする和泉。

やっぱり、案外和泉は違うかもしれないな、と思う。
出兵する翔に対して忠告できるくらいには。

そこに損得勘定があろうがなかろうが、他者に対する愛着は持っているのだ。
気づかないうちに、誰かを好きになることも十分ありうる。



「まぁ、無事帰ってこられるように祈っててよ」


それだけ言って、和泉と翔は別れた。
新聞が伝えるニュースでは、ナムト国との戦争も終わりを迎えそうな局面にきているらしい。

ただ、和泉の国の撤退というなんとも不本意な終わりらしいが。

そんな終わりの戦場に、翔は何のために行くのだろうか。

各社の新聞でパンパンになった自分の鞄を見ながら和泉は考える。
コーチの渋い青のターンロックトート。
去年の誕生日に寺田総馬に買ってもらったものだ。
大きめで、物がたくさん入るので和泉は気に入っている。





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