イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
金魚みたいに口をパクパクさせる私に、表情を強張らせた早乙女くんが言う。


「今のって……何かの冗談?」

「そ、そう! 冗談だよ冗談! もー酔っ払ってるからって、何言ってるんだろ……!」


笑っておどけてみせることで、焦りをひた隠しにする。けれど、早乙女くんは疑心に満ちた瞳で私を見つめ続け、私の腕を掴む力を強める。

気付いてしまった? 私達が本当の夫婦ではないことに──。


「一葉ちゃん、まさか──」

「おい」


早乙女くんが重々しく口を開いた、その時。彼のものではない低い声が廊下に響き、私達はパッとそちらを向く。

さっき一瞬見たのと同じ……いや、それ以上に鋭利で冷たい瞳を突き刺すような彼が立っていて、思わず身震いした。


「俺の嫁に何やってんだ?」


抑揚を抑えているのが逆に怖い声と、コツコツと響く革靴の音が近付いてくる。お怒りなのは明らかで、硬直する私の心臓だけがドクドクと激しく脈打っていた。

すっと腕を離して私を解放した早乙女くんは、慌てたりせず冷静に返す。


「すみません。彼女がつまづいたので、支えただけです」

「ふーん……」


納得したのか、疑っているのか微妙な反応をする部長は、コツッと私の目の前で足を止める。

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