イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
「……ダメ。離さないよ」


どことなく甘く聞こえる、いつもより低めの声が耳元で響いた。

なんだかゾクリとして顔が熱くなり、抵抗しようとする力が抜けてしまう。

早乙女くん、なんかいつもとちょっと違うような……?

その違いは、はっきりとはわからないけど、妙に色気があるというか。私が酔っているからそう感じるだけなのかな。


というか、それより。今、このトイレの前には誰もいないけど、抱き抱えられたまま歩くのは恥ずかしい。いつ誰が来てもおかしくないし。

この状況を打開したくてもどうしたらいいかわからず、とりあえず何か喋ろうと、私はへらっと笑って何も考えずに口を動かした。


「ほ、ほんとダメだね~私! こんなだから、いつまで経っても彼氏ができないんだよねぇ~」

「…………え?」


早乙女くんがぴたりと動きを止め、私はどうしたんだろうと彼を見上げる。十数センチ先にある端整な顔は、じっと私を捉えたまま。

私、何かおかしなこと言ったっけ?と、なんとか記憶を巻き戻す。数秒後、自分が口走ったことの重大さに気付き、はっと息を呑んだ。

ヤバい……“彼氏ができない”なんて、結婚している人間が言うことじゃないじゃん! 何言ってるの私ー!!

早く弁解しなきゃと思うのに、うまい言い訳が出てきてくれない。

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