イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
ちらりと、まだ頬の赤みが引かない一葉を見やる。このままここにいたら、こいつの気持ちなんて無視して襲い掛かっちまいそうだ。


「……わかった、今行く」


短く告げて電話を切り、慌ただしくバッグを持って部屋を出ようとする。しかし。


「っ、零士さん!」


呼び止められて振り向くと、まるで“行かないで”と訴えているような、今にも泣きそうな顔がある。

……ダメだ、ここで抱きしめたら、また止められなくなる。

その衝動を堪えるために、わざとらしいほどの平静を取り繕い、「戸締まり、ちゃんとしろよ」なんて、普通すぎる一言を残して部屋を出た。


扉が閉まった直後、大きく息を吐き出し、片手で口元を覆う。

くそ、もっと気の利いた言葉をかけてやればよかったのに……。中途半端にキスして放置って、あいつを困らせるだけだろ。いつもの冷静な自分はどこへ行った?


自分に辟易するが、今は桐絵のことも気掛かりだ。義理の弟として、家族が困っているのに助けないわけにいかない。

一葉への申し訳なさと名残惜しさを感じながらも、俺は急いで駅に向かった。


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