イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
声を荒げる田沼部長と、いたって平静な坂本部長の様子に、皆が仕事をしつつも目を向けている。

当然私も気にせずにはいられない。中谷さんに身体を寄せて、こそこそと聞いてみる。


「田沼部長が言ってるのって、ホテルのイベントで使う食材のことですか? 急きょ部長が引き受けた……」


今朝、うちの取引先ではないホテルの厨房の方から、オフィスに電話が掛かってきた。それを取ったのは私で、電話口の相手の声から焦っているのが感じ取れた。

用件は、明日の朝一の配送で食材を送ってくれないか、というもの。相手は取引先ではないし、しかもその量はかなり多かったため、自分では判断できず部長に取り次いだ。

すると、彼はまったく躊躇することなく、『承知いたしました』と、口元に笑みを浮かべつつ承諾したのだった。

その潔さに驚いたことを思い返していると、中谷さんは神妙な顔で頷く。


「たぶんそうね。ホテル側の手違いで食材を仕入れるのに問題が発生して、急だから他の業者はどこも取り合ってくれなかった……ってとこじゃないかしら」

「大量で、しかも朝一の配送って大変ですもんね」


冷蔵品は当日積み込むから、朝一の荷物が増えると、その分手間も多くなる。なるべく避けたいのは、どこの業者も同じだろう。

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