ゆえん
カフェコーナーに浩介と冬真が戻ってくると、珍しく楓が難しい顔で浩介を見た。
「言いたいことはわかっているよ。でも、理紗は沙世ちゃんじゃない。それは冬真が一番良くわかっているから大丈夫だ」
楓は視線を冬真に向ける。
冬真は小さく頷き、そして理紗のほうを見た。
「この前の話だけれど」
理紗の肩がビクンと動いた。
「聞かされても平気だったとは言えない。それに赦すも赦さないもないよ。ただ……もう自分のことを悪者にしなくていい」
ゆっくりと諭すように言った。
自分自身に対しても。
上目遣いで冬真を見て、理紗は納得いかない表情を見せる。
「どうして、そんな風に言えるの」
「とにかく関係ないんだ。君が修二たちに持ち続けていた感情とは全く違うしね。それに……」
「それに?」
「いや、やっぱりいいよ。俺が言うことじゃない」
「気になる。ちゃんと言って」
冬真は小さく息を吐いた。
どうしてか、理紗に自分は関わり過ぎてしまう。
沙世子に似ているせいだけだろうか。
今までほとんど人に意見することなどなかった自分が、あの日は行動を起こした。
東京まで行ったのだ。
自分のためでもあった。
今の闇から、理紗が抜け出せれば、自分もどこかへ抜け出せる気がしていたのは何故か。
「はっきり言って下さい」
「なら言うけれど、きっと修二たちは赦しを得たいと思ってない。君の中だけで気が済むかどうかのことなんだよ、そういうのは。きっと」
言葉を失う理紗と、心なしか驚いていながらも喜んでいるように見える楓の横を抜けて、冬真はカウンターの中に入っていった。