ゆえん

何もかも思い通りにこなしている千里子でも、二つだけ思い通りにならないことがある。

俺の気持ちと、席替えのくじ運だ。

別に千里子のことが嫌なわけではないが、好きなタイプでもない。

それにあまり公に積極的に言い寄られては、そそられる部分が皆無だ。

周りの奴らは俺がいつ千里子に屈するかを面白がっているように見える。

付き合っていない今でも面倒くさいと思ってしまうのに、付き合ったりしたら、もっと窮屈になるだろう。

好かれるのは悪い気はしないが、千里子に自分を支配されるのは嫌だ。


それを感じているのか、千里子は俺に対しては無理強いしない。

ただ俺の隣の席は死守したいようで、席替えの度に気合いの入れ方が異常だった。

ただ、くじ運も千里子の思い通りにはならないものの一つで、彼女はいつも俺の隣からはほど遠い席を引き当てる。

それでも千里子はめげない。

俺の隣を引き当てた女子に、決まってこういうのだ。


「私が浩介を好きなのは知っているよね? 一生のお願いだから、私と席を交換して。ね、お願い」


言われた女子が少しでも迷う素振りを見せると、千里子はすかさずに「え、もしかして、あなたも浩介が好きなの?」と問いただす。

その一言でみな千里子に俺の隣の席を譲ってしまうのだ。

好きでもない男子の隣の席のことくらいで千里子を敵に回したくないのだろう。

だから中学の一年間はずっと千里子が俺の隣の席に座っていた。


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