ゆえん

Ⅱ-Ⅲ



その事件が起きたのは五月の下旬だった。


五校時目の体育の授業が終わり、六校時前の休み時間が終わろうとしているのに、楓以外のクラスの女子が教室に戻ってきてはいなかった。

六校時は担任が受け持つ理科の授業だった。

始業のチャイムが鳴る。

担任が教室に入ってきて、半分近くの開いている席を見て、表情を変えた。

当然、担任はたった一人戻ってきている楓を問いただす。

問われても楓はどういうことなのかわからず、どう答えていいかもわからずに黙っていた。


「どういうことなんだ」


少しずつ担任の声が大きくなる。


「私はトイレに寄るのにみんなより先に更衣室を出てきたんですけど……」


楓は身を硬くしている。

楓自身、どうしてみんなが教室に戻ってこないのかがわからないようだ。


「わ、私、探してきます」


楓は席を立ち、廊下に掛け出して行った。


「いったい、どうしたと言うんだ」


担任は明らかに苛立っていた。

教室内には男しかいない。

苛立つ担任とは反対に半分以上の男子がこの状況を楽しんでいた。


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