ゆえん

楓が教室を出て行ってから、五分ほどして女子たちがぞろぞろと教室へ戻ってきた。

担任が何をしていたかを訪ねると、千里子が言い辛そうに口を開いた。


「更衣室を先に出ていった望月さんが間違って、更衣室の鍵を外からかけちゃったみたいで、みんな閉じこめられていたんです」

「間違ってって……。そんなことあるはずないだろう。望月はどこへ行った?」

「更衣室のドアを開けてくれた後、一緒に戻ろうと言ったんですが、ねぇ」


千里子がほかの女子の顔を見て頷いている。


「先生に叱られるのが怖いからと、更衣室にいるみたいです」

「まったく、何をやっているんだ、望月は。私が戻ってくるまで、教科書の二十五ページを読んでなさい」


担任が教室を出ていくと、千里子たちは小さい声で「やった」と言い合っていた。


「おい、どういうことだよ」


千里子の席まで行って、俺が問うと、千里子は澄ました顔で「私たちは何もしてないもの」と言うだけだった。

なんとなく嫌な予感がした。

俺は教室を飛び出して、女子更衣室がある場所へと向かった。


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