ゆえん


男友達と仲良くなっていくということは、自然と楓と距離が離れていった。

高校入試前の千里子と楓のゴタゴタなことが、俺には少々面倒臭くなっていた。


俺の中で、小さな混乱が起こり始めていることも自覚していた。

楓と瞳さん。

この二人を比べるという思考自体に混乱していた。

大好きなギターや音楽と触れ合っている時間にふと頭に浮かび上がる混乱。

そこから単語をノートに書き綴っていく。

インスピレーションが湧いて、俺は曲のようなものを、ギターを弾きながら口ずさむ。

悩むよりもこの作業のほうがよほど楽しかった。


要司と正幸も俺に影響されて、楽器を買った。

要司はベースを、正幸は親とかなりもめながらも、正幸の姉の後押しで、中古のドラムセットを買うことが出来た。

正幸の部屋に、集まってよく演奏していた。

最初は渋っていた正幸の母親も、俺たちが楽しそうな姿を見て、寛大になってくれた。


音根町は田舎なので、貸しスタジオみたいなところもなく、俺たちはしょっちゅう正幸の部屋に集まっていたので、正幸の父親がとうとう、防音効果のある小さな小屋を建ててくれた。

大工をしている正幸の父親にとっては、簡単なことだったかもしれないが、俺たちにとっては良き理解者が出来たことがとても励みになった。

毎日、その小屋で好きな音楽に没頭し、オリジナルも作り始めた。

そうしているうちに段々と楓に会わなくなっていった。


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