ゆえん


練習にも力が入り、順調に日々は進んでいく。


同じ頃、高校では進路希望の用紙が配られた。

もう二年生の後半である。

はっきりとした答えを書かなくてはならない。

俺の心は決まった。

用紙に書くのにも勇気がいる。

音楽の道に進むなんて書く奴が他にいるようにも思えないし、担任には鼻で笑われるかもしれない。

ただ、書かずにいることは逃げ道を作っていることになると思った俺は、書く覚悟を決めた。

その前に一応両親の了承を取っておこうと、俺は洋輔や妹の果音もいる前で、両親に告げた。


「俺、高校を卒業したら、音楽の道に進みたい。迷惑かけないように自分で働きながら、通うべきところには通って、独り立ちできるまでここには戻らないつもりだから」


果音はとても驚いていた。

両親は黙ったままだ。

しばらくして親父が「男は大学に行くもんだ」と言った。


「お母さんも賛成は出来ないわね。でも、もう決めたんだったら、あんたは親が反対しても行くんでしょうから」
 

母さんはしみじみと言って、俺を見つめる。
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