ゆえん

Ⅰ-Ⅲ


     *

冬真が沙世子からはっきりと交際を申し込まれたのは出会って半年経った頃だった。

沙世子の存在が冬真の中でも大きくなっていた頃で、二人は周りから見ても微笑ましいほどに仲が良かった。

二人で、あるいは冬真のバンドのメンバーたちに交じって沙世子は『Rai』に通った。

冬真たちが浩介の話を聞いている時、沙世子は楓と談笑している。それがいつもの光景だった。


甘いものが大好きな沙世子は、『ティンカーベルハット』という名のケーキ屋でアルバイトを始めた。

冬真との親密度が高くなるに連れて笑顔が自然になり、屈託なく笑う魅力的な女性となっていった。

冬真が沙世子の笑顔を褒めると彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。


「ねえ、冬真はどう思う?浩介さんあっての楓さんなのか、楓さんあっての浩介さんなのか……」

「そりゃあ、楓さんあっての浩介さんだよな。見ているとそう感じる」

「きっとそう言うと思った」

「なんていうか……すごく素敵な人だよな」


その時、沙世子が少し切なそうに冬真を見ていたことを、冬真自身は気付いていなかった。


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