ゆえん

『Rai』がオープンした頃、通い続けた理由の中の一つを、冬真は誰にも話したことはない。

テレビで浩介の横で微笑む楓の姿を見た時から、彼女に密かに憧れていたのかもしれない。

一見、気が強く冷たい印象を与える顔の楓は、微笑むとそのギャップからか、最高の笑顔の持ち主に見えた。

そしてよく表情が変わる。

曲がったことが嫌いで、正直すぎて、それが災いして人とトラブルになることも少なくなかった。

納得するまで引かない。

だか、人の話をきちんと聞き、自分の非は素直に認める。

和解した瞬間にほろっと涙の雫が零れ落ちそうになるのを必死に堪えている潤んだ瞳のままで、それまで言い争っていた人までも味方にしてしまうような微笑みをする人なのだ。

自分だけではなく、誰もがその笑顔に心を動かされるのだろうと冬真は思った。

彼女の笑顔は温かい。

心を癒されると感じていた。

冬真はただ見ているだけで良かった。

浩介の隣で幸せそうに微笑んでいる楓の姿を見るだけで十分だった。


< 19 / 282 >

この作品をシェア

pagetop