ゆえん

半年前から『You‐en』のほうで人手が足りないということで、こちらに専属で働くことになった。

それと同時に私は彼のことを「店長さん」から「店長」と呼ぶようになった。

当時、冬真さんが私を呼ぶことが増えてきたのが嬉しかったけれど、彼は私をいつも「木下さん」と呼んでいた。

浩介さんは「理紗」と呼び、楓は「理紗ちゃん」と私を呼んでいる中で、彼だけが一番他人行儀の苗字に「さん」付けだったのだ。


「木下さんでは長いから、浩介さんみたいに呼んでください」と私が言ったところ「じゃあ、君も店長でいいよ」と言われてしまった。

理紗と呼んでもらいたくて、そして冬真さんと呼びたくて思い切って言ったのに、結局彼は私を「木下」と呼ぶようになり、私は「店長」と呼ぶようになったというわけだ。



< 195 / 282 >

この作品をシェア

pagetop