ゆえん
彼に出会うまで、男性に対して呼び方を変えてもらいたいなんて思ったことはなかった。
ほとんどの人が「理紗」や「理紗ちゃん」と呼んでいた。
だから気にも留めなかった。
でも、冬真さんに苗字で呼ばれると、一定の距離を置かれているみたいで切なかった。
彼が私と距離を置くのは、彼の中で私を赦せないでいる証ではなかろうかと考えてしまう。
そしてそう思えば思うほど、名前で呼んでほしいとは言えず、ましてや「あなたを好きです」などと言葉にすることは許されないと自分に言い聞かせるしかないのだ。
こんな虚しい恋をして何になるというのだろう。
今まで自分の思った通りに行動してきた私が、まるで修ちゃんに恋をしていた十五歳の時のように、相手に想いを打ち明けられないなんてもどかしいことをするとは思わなかった。
でも、大きな罪の意識はいつまでも残っている。
彼が私を責めないから尚更かもしれない。