ゆえん
マユが冬真さんの足に手を伸ばしたことに気付くと、冬真さんはマユを抱き上げ、愛おしそうに抱きしめる。
「真湖」
確かに冬真さんは「マユ」ではなく「マコ」と発音した。
「トウマ、マユだよ」
マユが冬真さんの腕の中で自分の名前を訂正する。
冬真さんがマユを抱く腕の力を緩め、私に視線を向けた。
ここでもし、私のことを「沙世子」と彼が呼んだら、私はもうここには居られないと思った。
今までのようにはいられないと怖くて目を閉じた。
「……おはよう、木下」
冬真さんが言った後「トウマ、リサだよ」とマユが訂正していた。