ゆえん


「和のデザートってあと幾つ残ってたかな?」


客席で常連客と談笑していた楓が厨房に戻ってきた。


「あと三つですね」


何事もなかったように、冬真さんがカウンターへ戻っていった。


「冬真が好きか」


浩介さんは直球で訊いてくる。

この人に嘘を吐いても無駄だと思う。

けれど言葉に出来ない。


「……」

「そうだな、あいつは惚れてもいい男だ。でも、理紗は辛いかもしれないぞ。あいつから沙世子は消せない」

「そんなこと、わかっています」

「なら、罪悪感なんて捨てて行動あるのみだ」


浩介さんから後押しされるとは思っていなかった。


「でも、冬真さんの気持ちは」

「理紗が相手の気持ちを考えるまで成長しているなら大丈夫だろう。それに冬真は女に対して自分から行動する奴じゃない」


浩介さんはふっと笑った後、メモを手にしたまま、カウンターへと出て行った。

スープの鍋をかき回しながら、私は浩介さんの言葉をよく考えてみた。

私は言ってしまってもいいのだろうか。

自分の想いを冬真さんに。

浩介さんはそう言っているのだろうか。



< 259 / 282 >

この作品をシェア

pagetop