ゆえん
今まで浩介さんに向かって話していた冬真さんが私を見た。
「理紗はここに縛られる必要はない。あの事故のことで自分を責める必要はないんだよ。そもそも俺が沙世子に送ってもらわなければ、君と沙世子があの場で遭遇することもなかった。悪いのは俺のほうだ。だから理紗は自分の人生を自分のために選んで生きていくんだ」
「私は……」
冬真さんの気持ちが分からない。
あの事故のことは私だけが背負えばいい十字架なのに、どうして自分が背負おうとするのだろう。
本当なら私が憎くて当たり前の立場なのに、どうして私を責めないのだろう。
「あの事故は何度も言っているように私のせいなんです。ここで沙世子さんの代わりをするのが私の……」
自分で言って、はっとしてしまった。
私は沙世子さんの代わりでいいと思っているのか。
「誰もそんなこと言ってない」
黙っていた浩介さんが口を挟んだ。
「俺が理紗をここに連れてきたのは、沙世子の代わりにするためじゃない。そんなこと冬真が一番望んでないはずだ」
同意を求める浩介さんの視線を冬真さんは苦しそうに見つめ返した。
「冬真?」
浩介さんが目を見開く。
「まさか、お前……」
「とにかく、マユのことは心配しないでください。俺が何とかします。それに木下、もう俺一人でも大丈夫だから、自分のアパートに帰るんだ」
「どうして急にそんなことを言うんですか。冬真さん一人でマユを育てるなんて。どうして私だけ外すんですか。私だって……」
思わず冬真さんを必要としていることを言ってしまいそうになった。
でも、私がそれを言うことは許されない。