ゆえん


マユの姿が見えなくなって、私は更にしゃくり上げる様に泣いてしまった。

心のどこかで、冬真さんとマユとの生活が続くことを願っていたのかもしれない。

三人で過ごした僅かな日々が幸せのカタチだと思ったから。

それが突然、無くなることに私は恐怖さえ覚えた。

そして、これが冬真さんの五年前の経験を連想させるのだ。


「楓、先に理紗を送って行ってやれ。俺は冬真と少し話したい。終わったら迎えに行くから」


浩介さんに言われ、私は涙を拭いながら「一人で大丈夫です」と言ったが、楓は私の背中に手を回し、撫でるようにして「一緒に行こう」と言った。

不本意ながらもまた目が潤んでくる。

自分でもどうしようも出来ない。

心の中の堤防が崩れてしまったのだ。


「あんたなんか嫌いなんだから」


言うつもりはなかった言葉を涙と一緒に吐き出していた。

同時に嫌いなのではなく、悔しかっただけかもしれないことに気付いた。

冬真さんの事を昔から知っているこの女がとても羨ましく、敵わないと知っていたからだと。


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