ゆえん


楓は少し傷ついたような表情を見せた。

それが意外だった。

すぐに穏やかな表情に戻り「日本に私のこと嫌っている人は多いと思うわ。浩介の妻で居る限りはね。もう慣れたけど」と笑った。


「葉山浩介の妻だから? そんなこと関係ない」

「それじゃあ、冬真君の傍にいるからってことか」


言い当てられて、黙ってしまった。


「私ね、沙世ちゃんが大好きだったの。自分の妹みたいに思っていた。子供を産むことが出来ない私には二人の子供の真湖ちゃんの存在はまるで自分の姪っ子のような感覚で過ごしていたわ」


楓は夜空を見上げて月を見ていた。

責められている感覚になった私は涙がさらに零れてくる。


「あなたを見ていると、とても複雑だった。どうして浩介が冬真君の店に沙世ちゃんそっくりのあなたを置こうと思ったのかが理解出来なくて。弟に意地悪をする夫のみたいに浩介のこと思ったこともあるのよ。私」


楓が冬真さんを弟と捉えている。

今までそういう発想が私の中にはなかった。

一人っ子の私には弟がどんなものか分からない。

血の繋がらない異性を兄弟として見るという感覚がよく分からない。


「浩介に言われたわ。沙世子を見くびるなって。理紗をここに寄こしたのは沙世子だって。きっと今回のマユちゃんのことも、浩介に言わせれば、沙世子が導いたって言うんだろうな。そう思うわ」


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