ゆえん
予想外の言葉に私が顔を起こして楓を見ると、彼女は私を見て微笑んでいた。
それから彼女はまた月を見上げ、小さく頷きながら月を指さす。
「冬真君が言うのよ。あれは沙世子なんですって」
私は無言のまま、楓が指した月を見上げる。
冬真さんはよく月を見上げている。
そこに誰を思い浮かべているかくらい、本人から聞かなくても、楓に言われなくたって、私は分かっていると言いたかったが黙って歩いた。
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