ゆえん


今、冬真さんが真剣に私と向き合ってくれていると感じる。

今まではお互いに向き合うことを避けていたのだ。

私は突き放されるのが怖くて。

冬真さんはきっと、認めるのが怖くて。


勝手に読んでしまった沙世子さんの日記の言葉が浮かんできた。


〈冬真を本当に幸せに出来るのは自分だって信じているもの〉


浩介さんの言う通りかもしれない。

沙世子さんは冬真さんの幸せだけを今も願っているはず。

私はその後に続く言葉を心の中でなぞり、そして自分の言葉に生まれ変わらせる。


「冬真さんの傍に置いてくれるなら、私が冬真さんを幸せにしてあげる」


冬真さんは再び目を閉じ、天井を仰いだ。

私は腕に力を込めて、より冬真さんに身を寄せた。

冬真さんの腕が私の背中に回って、強く抱きしめてくれた。


やっと手に入れた。

私の本当に欲しかったもの。

愛する人に似ている人を探すのではなく、冬真さん本人と歩いていく幸せ。

沙世子さんを愛した冬真さんごと愛していく決心。

冬真さんの心の中に沙世子さんが居続けようと、私はこの人と生きていく。

そう心に誓った。



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