ゆえん


「矛盾しているんだ。俺の中から沙世子を消すことは出来ない。それでも君が俺の中に入ってくるのを止められない。初めて理紗を見たとき、沙世子がいるのかと思った。でもすぐに理紗は沙世子じゃないって実感できた。それなのに君が誰かに責められている姿や、痛い思いをしているのを目の当たりにすると、俺の心が痛む。修二のことを引きずって、もがいている君を見ると、俺が何とかしなくてはと思ったのも事実。最初は沙世子に似ているからだと思っていた。でも君は沙世子みたいに強くない。どうしてもほっとけないと思った」

「それって同情?」


冬真さんは観念したように首を横に振った。


「じゃあ、それって何?」


大きく彼の肺が動く。

深呼吸をして目を開き、私の顔を見る。


「罪の意識を取り払って考えてみろ。浩介さんがそう言うんだ。お前と理紗は出会うべく出会ったと思えば簡単だと」

「えっ」

「事故は避けられない沙世子と真湖の運命だった。沙世子は真湖が一人で逝くのが可哀想で一緒に逝ったのだと。でもお前を一人残すのも耐えられない。だからあの事故に理紗を関わらせた。そう思えば、今回のマユのことも沙世子がお前の幸せを思って寄越した小さな使者だと。幸せだった頃を思い出させるための。沙世子はそういう女だって言うんだ。理紗はそう考えられるか? そんな風に考えられるか?」


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