ゆえん
店に入って窓を開け、いつも冬真がすることは店の入り口に置くその日のメニュー看板を書くことだ。

それにちょっとした言葉と、ほんの少しの絵心を足す。

色は三つだけ使うことがいつの間にか定着している。

和のデザートと洋のデザートがそれぞれ一つずつ。

それに定番のレアチーズケーキ。

沙世子の大好物で、彼女が大学時代にアルバイトをしていたケーキ店『ティンカーベルハット』のものだ。

そこの店長の好意で、このレアチーズだけはケーキ店で販売せずに、冬真の店だけで扱わせてもらっている。

一言を書く際、冬真はいつも空を見上げる。

沙世子に問うように言葉を探す。

今日は澄み渡った空だな。

何がいいかな。


〈いさぎよいあおのゴキゲン〉


自分にとっての沙世子のイメージを膨らませて、明るく、そして元気になれる言葉を選ぶ。

漢字は使わないことにしている。

仮名とカナで書くほうが、言葉をその人なりの受け取り方で解釈してくれると感じてからだ。

< 3 / 282 >

この作品をシェア

pagetop