ゆえん

考えながらふと足を止めて、冬真が大きなため息を吐いた時だった。

道沿い左側の店のドアが大きな音と共に開かれ、自分の目の前に女性が放り出された。

女性は長い髪をかき上げ、自分に罵声を浴びせる男をキッと睨む。


「とにかく、もう来なくていい。まったく何を勘違いしてるんだ!」


勢いよくドアが閉められ、女性はゆっくりと立ち上がって顔を上げた。

そして冬真のほうにゆっくりと体を向ける。

白のノースリーブで体のラインにそった短い丈のワンピースには、酒を掛けられたように一部が濡れていた。

放り出された時に膝を擦り剥いたのか、破けたストッキングの右膝からは血が滲んでいた。

右のハイヒールが脱げて転がっている。

派手にカールが掛かった髪の下には、沙世子と瓜二つの顔があった。

冬真は目を閉じた。

嫌な胸騒ぎがする。

突然目の前に現れたこの女性はやはり理紗だった。

別に理紗という自分の店の客が、ホステスをしているのが嫌なわけじゃない。

沙世子とそっくりな顔で、ホステスの恰好や、罵声を浴びる姿を見るのが耐えられないのだ。

冬真に気付いた理紗は、冬真を「あ――、店長さん」と呼んだ。

そのことで冬真は少し冷静になった。


「いつも変なトコ、見られちゃうね」


転がったハイヒールを取りながら、理紗は苦笑してみせる。
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