ゆえん

Ⅰ-Ⅶ



     *

十年も前のことだが、理紗は最近のことを話すように冬真に聞かせた。


「手元に残っている修ちゃんの写真と少しでも似ている人がいると、無意識に目で追ってしまう。その人を知るほどに修ちゃんと違うことを思い知らされる。大切にすることが出来れば、私も幸せになれる気がするのに、何かが修ちゃんと重なると傷付けなくちゃ気が済まなくなる。いつも悪循環」


思考が全て〈修ちゃん〉に対する感情で回っていのだろう。

冬真に痛いほど響いてきた。

しかも知らなかったとはいえ、彼女のこの痛みを生んだことに、自分も手を貸していたことになる。

二人を東京まで運んだのは自分なのだと、冬真は気付いてしまった。

何年経っても囚われ続けているその姿が、自分を映し出す鏡のように見えた。

自分も沙世子と真湖のことを悔やみ、嘆き続けるのだろう。

理紗が抱える感情と種類は違っても、前に進むために、いつかは線を引かなくてはならないことなのかもしれない。


「……行こうか。修二のところへ」


思った瞬間に言葉が冬真の口から出た。自分でも不思議な感覚だった。

エプロンを外しながら、冬真が立ち上がる。


「今から会いに行って、終わらせよう」

「今から?」

驚く理紗を横目に冬真は携帯電話を取り出し、修二の番号に掛けた。



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