ゆえん


冬真は小さく頷き、今度は楓に電話をした。

三コール目に楓が出てくれた。


「大事な用が出来たので出掛けたいんです。今日これから店を頼んでもいいですか?」


冬真が多くを語らなくても、楓はいつも理解してくれている。

楓に対して冬真はそんな安心感を持っている。


「わかった。すぐ行くから、今出ても大丈夫よ」


冬真は電話を切ると、皿を流しに運び、洗い始める。


「楓さんが来てくれるから、ここは大丈夫」

「でも……」

「今、車を持ってくるよ」


冬真の行動の速さに、理紗は戸惑いながらも自分の皿を流しに運んだ。


冬真の車の中で、理紗はずっと無言だった。

その姿は、はっきりとした終止符を打つことに怯えているようにも見える。

冬真は今から自分がしようとしていることが、理紗にとって必要なことなのか、酷いことなのか、わからなくなってきていた。

でも、ここで引き返しては何も変わらない。

沙世子と同じ顔の彼女に、この先も過去の傷に囚われたまま居て欲しくない。

沙世子じゃないとしてもその顔で笑顔を見せて欲しい。

理紗のためにというより、自分のために車を走らせているんだと冬真は感じた。


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