ニコル
 「はい。ここまででわからない事がある人。」
 一通り、黒板に授業の内容を書き出し生徒の方を向くと、そこにはニコルの瞳があった。
 ―――駄目だ。やっぱりこの子の視線だけは好きになれない。
 ニコルの視線からはずれようと体を無意識に動かした。その浩二の動きをニコルの視線は素直に追った。浩二には、ニコルの視線が相変わらず自分自身に向けられている事がよくわかったが、気が付かない振りをして授業を進めるしかなかった。
 今まで何年も教師をやっていて、こんなに授業が早く終わってほしいと思う事ははじめてだった。まるで、生徒のように早く終業のチャイムが鳴る事を考えながら授業を進めた。
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