ニコル
 担架に乗せられ、彼女は救急車の中へと運ばれる途中だった。その時、彼女の形にボンネットが凹んだ車が目に入った。その隣には、日本人の姿があった。警察に何か聞かれている様子から、自分が車に撥ねられたんだとわかった。
 ―――あれ。信号は青だったわ。それを見て交差点を渡っていた気がする。
 必死に警察に話している日本人の言葉は早すぎて半分しかわからなかった。大量に出血していた事が、彼女の意識を朦朧とさせ理解力を低下させていた。
 そのせいだろう。彼女にはとてもひどい言葉に聞こえていた。
 ―――なんで、そんな事を言うの?
 ―――なんで、私の自由を奪うの?
 ―――なんで?なんで?なんで?・・・
 言葉にならない怒りが静かにその日本人に向けられた。それを少しでも相手に伝えようと、彼女は必死にその男の方を見ようとした。
 その時、その日本人の彼女らしい女の表情が目に入った。彼女を蔑むようなその表情は、決して悪びれていないとても気分の悪くなるものだった。
 そして、それが更に彼女の怒りを増大させた。
 ―――憎い。
 ―――憎い。忘れない。
 ―――憎い。忘れない。この気持ちは永遠に・・・。
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