ニコル
温もりの中で
 「はあ。はあ。」
 勢いよく扉を開け、逃げ込むように保健室に入った。そんな浩二の姿に、養護教諭の堺が驚いていた。
 「どうしたんですか?近藤先生?」
 浩二は息がきれ、すぐに彼女に返事する事が出来なかった。一回、二回、三回・・・ゆっくり深呼吸して、やっと話せるようになった。
 「す、少し気分が悪くなりまして。」
 顔色はまだ青白いままだった。それなのに、保健室まで走ってきた浩二の事を堺は不思議に思い尋ねた。
 「気分が悪い?それなら、なんで保健室に走ってきたんですか?ますます、気分が悪くなりますよ。」
 「それは・・・。」
 そこまで口にして、浩二はやはり本当の事を言う訳にはいかない事に気が付き、そのまま言葉を濁した。そんな浩二の言葉に気になるものを感じたが、堺は気にせず、いつもの通りに対応する事にした。
 「とにかく、体調の悪い時に走らないでください。じゃ、まずはこれで熱を測って下さいね。」
 渡された体温計を口に入れると、浩二はベッドの横にあった丸椅子に腰掛けた。
 ―――なんで僕を見るんだ?
 執拗に見つめ続けられる事に浩二は疑問を感じていた。少なくとも浩二の記憶の中ではニコルとは出会った事はなかった。知り合いなら浩二の事を見つめる事もあるかもしれない。しかし、それにしてもニコルの視線は異常だった。
 浩二にゆっくり考える時間を与えないかのように、体温計のアラームが鳴った。
 「熱はないみたいですね。でも、そこのベッドで少し休んでましょうか?」
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