ニコル

生首は襲う

　「先生、早くこっちです。」
　香田は手招きをしながら浩二に合図を送った。その合図を見て、浩二は生徒を一人ずつ香田の方へと走らせた。
　「ほらっ。走れっ。」
　浩二のかけ声で生徒達は勢いよく走り出した。ひとり、ふたり・・・、順調に生徒達は給食準備室に逃げ込んでいった。最後に残った生徒は美咲だった。
　「大丈夫だよな。美咲。お前はクラスで一番足が速いんだもんな。あそこの給食準備室までなら、あっと言う間にゴールできるよな。」
　美咲を励ますためにそんな言葉をかけた。その言葉は浩二自身を励ましている言葉にも聞こえた。そんな事を子供ながらに悟ったのだろうか、美咲は素直で可愛い返事をした。
　「うん。先生が後ろで見張っていてくれるし。ゴールには香田さんもいるんでしょ。すぐにゴールして先生をびっくりさせてあげるよ。」
　美咲は運動会の徒競走の時のように、スタートのポーズをとって見せた。浩二もそんな美咲に合わせるように、手で銃の形を作り大きく振り上げた。
　「よーい。」
　美咲の腰が一段低くなった。
　「どんっ。」
　美咲は給食準備室に向かって勢いよく走り出した。