なみだ雨
2日後の閉店間際、練がきた。
姿を見た時、隠れようかと思った。
でも、できなかった。
声をかけられて、
わたしはショーケースに入れるはずの
どら焼きを床にばらまいてしまった。
「菊原さん、大丈夫ですか」
大丈夫です。
そう答えたいのに、答えられない。
練の声を背中で聞く。
顔を見られないでよかった。
涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
こっちを伺うように見ている理子と目が合う。
「メール見ましたか…?」
首を横に振るのが精一杯。
「いつ、退院されたんですか」
気を抜けば、嗚咽がもれそうになる。
歯を食いしばって、足も踏ん張って。
会いたいとずっと思っていた人が、
その人の胸にすぐ飛び込んでいける
この距離が、
もどかしくてたまらない。
ごめんなさい、梁島さん。
いまあなたの顔を見たら、きっと、
甘えてしまう。
本当は抱きしめて欲しい。
あなたのそのたくましい腕で、
わたしを守ってくれたその腕で、
もう大丈夫だよと、
抱きしめられたらどんなに幸せか。
あなたのその綺麗な心が、綺麗な瞳が、
汚れたわたしで傷つくのは見たくない。
ごめんなさい。