なみだ雨






どら焼きが乗ったトレーを練に押し付け、

はるかはお店を飛び出した。


「はるかちゃん!」

理子が叫ぶ声が聞こえる。



半袖の制服が、

直接はるかの肌を空気が突き刺す。


どのくらい走っただろうか。

はあはあと、荒がる息が収まらない。

涙はもう乾いていた。



「ねえ、」

足元を見ながら歩いていたはるかの肩が

ぐいっと引かれた。

びっくりして思わず立ち止まる。

後ろを振り向くと、にやついた男が2人。


はるかはここで、自分がラブホテル街を

歩いていたのだとやっと気がついた。


「わ、思ったより可愛い。ちっちゃいね君。身長何センチくらい?150ある?」

「いやー155ぐらいでしょ、当たってる?」


怖くなって歩きだそうとするが、

腕をがっちりと掴まれている。

おぞましい。

半端なく強い力。

おじさんを思い出しそうになったその時、


「寒くない?半袖」


暖まっていこうよ、

そう言われて、男の手をふりほどく。



あ!待て!


追いかけられている。

捕まりそうになりながらも大通りの方へ

全力で走る。



間に合わない、捕まる

そう思った時、ぐいっと腕をつかまれた。


終わった…。

口を覆われて身動きが取れない。


「しー…」

耳元で聞こえた声。


練だ。



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