その瞳をこっちに向けて
「あっ……」
思わず私の口からそう声が漏れたが、その声は橋の上の二人には届かない。
「俺も落として無くした。だから、次のデートの時にまたお揃いのペンダント、……買おう」
風に乗って聞こえてくる仁先輩のその声はとても優しくて。
空いた手で美音さんをギュッと抱き締めたその光景に。
「俺は何よりも美音の事ばっかり考えてて。美音が何よりも大切なんだ」
その言葉に。
諦めのため息が落ちた。
「分かってたけど。……敵わないや」
誰に向かって言ったわけでもない一人言。その一人言は直ぐに雨の音に消されていく。
私の恋心と共に消えていく。
胸の奥に刺さっていた針がスルリと抜けた様に痛みも消えていくのに、少しだけ寂しさを感じながらも自然と口角が上がる。
「探す必要なかったっぽいですね。ほんと、……ムカつく位幸せそうです」
自棄にスッキリした気分でニカッと笑う私の頭に、「だな」と言いながらふわっと乗せられる中畑先輩の大きな手。
その心地よさに一瞬だけ瞼を閉じた。