その瞳をこっちに向けて
「美音!いくら待っても来ないから心配したんだぞっ!」
「仁!」
「どうした?」
「ご、ごめんなさい。私、……仁とお揃いのペンダント、……川に落としちゃって」
風に流れに乗ってハッキリと聞こえてくる二人のその会話。凄く必死な仁先輩。涙をぽろぽろと流す美音さん。
橋の上のその光景は、まるでドラマの一場面を見ているかのように別次元のものに思える。
「やっぱり私も探してくる!」
「バカ美音!こんな雨の日に川に入るなんて事させるか!どれだけ危ないと思ってんだ!」
「でも……」
仁先輩に手首を掴まれて再び目を合わせる美音さんは凄く儚げで。
私まで彼女を守ってあげなきゃならないって思ってしまう程だ。
そんな彼女を目の前にしている仁先輩の手がふわっと彼女の手首から離れたと思ったら、その瞬間自分の首に掛かっていたチェーンを引っ張った。
プチンッと弾ける様に千切れた鎖。
美音さんとお揃いのペンダントが仁先輩の首から姿を消し、手の中に握り締められたと思ったら、ふりかぶった仁先輩の手から弧を描いて川へと落ちていく。
キラキラと雨を反射して。まるで大きな涙の粒の様に。