その瞳をこっちに向けて


「あー、その。ほんとにお邪魔していいんですか?」


 ハッキリ言って、私は中畑先輩の友達でもなんでもない。分類されるなら知り合い…だと思う。


そんな知り合い程度の奴が家にお邪魔していいのか?という考えがここまで来て今更沸々と湧いてきたのだ。


が、それに中畑先輩の鋭くなった目がギロッと私を睨み付ける。


「ここでタオルだけ渡して帰れなんて俺に言わすきなわけ?」

「そ、そういうわけでは……。何て言うか、……勝手に上がったらご両親に悪いっていうか」

「今の時間帯は俺以外に誰もいないから安心しろよ」

「あっ、……はぁ。……じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔します」

「おう」


上手いこと言いくるめられた気もしないでもないが、ここできっぱり断るのもまた変で。渋々、中畑先輩に続いて玄関へと足を踏み入れた。


 玄関に入るとカチャンと音をたてて閉まるドア。


「タオル持ってくるから」

「あっ、すみません」


タオルを取りに行った中畑先輩の後ろ姿を見ながら、不意に自分の腕に手が触れた。その瞬間、思わずその冷たさにビクッと肩を揺らす。


気を張っていたからか気付いていなかったが、どうやら雨に当たった私の身体は相当冷えきっていたらしい。

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