その瞳をこっちに向けて


その作戦とは、中畑先輩とはもう既にほぼ毎日一緒に帰っているわけだが、ここで私が『今日、一緒に帰りたいので帰れますか?』と訊くというもの。


いつもは訊かないのに、わざわざ今日は訊くというのがポイントらしい。つまり、これがさりげない一緒に帰りたいアピールになるんだそうだ。

 
 鈴菜曰く、この言葉と共に中畑先輩の服をツンツンと引っ張るんだとか。といっても、ゲームからの知識だから、実際成功するかは微妙だったりする。


次いでに言うと、『了解です』とは言ったものの、本音はかなり気が重い。


 カチ、カチと鳴る秒針の音。その音が聞こえる度に心拍数が加速する。


目の前では作戦を楽しんでいるのだろう鈴菜がキラキラと目を輝かせて廊下を見ていて。今更、やっぱり無理です…なんて雰囲気は微塵もない。


その事に小さくため息を吐いた時、ガラッという教室のドアが開く音と共に、

「工藤!行くぞ!」

という中畑先輩の声が響いた。


 その声に、反射的にしゃがみ込み机に身を隠す私とは対照的に、やたらとテンションの高い「来たー!」を小声で口にする鈴菜。


そして、ご機嫌に私へ顔を向ける。

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