その瞳をこっちに向けて
「と思ったんですけど、ついさっき急用が入りまして。母が。……そう。母に肉を買ってこいと言われまして」
「えっと……。なら、俺も買い物付き合ってやるよ」
「結構です!」
「何でだよ?」
悩みもせずに断った私にムッとしたのか、中畑先輩の目が鋭くなる。
でも、でもだ。キッパリ断るにはそれなりの訳がある。ただ今は、それを口にするわけにもいかない。
「一人でじっくりと肉を吟味したいんです!一人でです!一人がいいんです!」
「はぁ?」
勝手に動く口は嘘を連ね。
「兎に角、そういう事なので」
「ちょっ、工藤」
逃げ腰の身体は、少しでも中畑先輩から離れようと廊下を駆け出す。
ああ。……どうしよう。
私。…………ドキドキし過ぎて、中畑先輩と話せなくなってる。
次いでに咄嗟の嘘とはいえ、……何故に肉!?
どうしてあのタイミングで肉を連呼……。ないわ。
ほんと、……ない。