その瞳をこっちに向けて
「な、何でもないですよ!ね?」
「う、うん」
空かさず入った鈴菜のフォローに助けられた。
その事にほっとしたのも束の間、そのまま「じゃあね」とだけ言うと鈴菜は教室へと戻っていってしまう。しかも戻る時小声で、分かってるわよね…という念押し付きで。
目の前には中畑先輩。教室には鈴菜。
私に逃げ道は一切ない。
あー、もう。只でさえ心臓が爆発寸前なのに。
中畑先輩の顔を見るのも一苦労なのに。
でも、……やるしかない。
「あ、あの……。中畑先輩」
「ん?」
少し首を傾げる中畑先輩の顔は優しく微笑んでいて。その姿を目にしただけで、心臓が更に暴れだす。
今すぐにも逃げ出したい衝動に駆られるが、それでも逃げ道のない私は作戦を実行に移さないといけないわけで。意を決して、両方の掌をギュッと握り締める。
「きょ、きょ、今日は……」
「今日は?」
あ、後、……一言。
「中畑先輩と、…………帰りたい」
言った!そう思った瞬間、少し頬を染めた中畑先輩の姿が目に映った。と、同時に私の口が勝手に動き出す。