その瞳をこっちに向けて


ーーーーー

 天気は快晴。


朝の空気は何処か清々しい。


 そんな中、数ヵ月前まで毎日仁先輩を隠し撮りしていた木の陰に身を潜め、登校してくる生徒の顔を一人ずつ確認する。


まだお目当ての人は来ていないのに、いつ来るのかとバクバクと心臓が音を奏でている。


その音を少しでも抑えようと深呼吸した時、目に映った相手に一気に心臓が飛び跳ねた。


 背が高くてスラッとした体型。ふわっとした少し茶色がかった髪に、くりっとした二重の目。


そんな彼は、隣に並んで歩いている仁先輩に笑いかけていて。



私も仁先輩になれたら……ーー



そう思ってしまっていた。


 時間が止まったかの様に彼の姿だけを目が捉える。でも、時間が止まっているのは私だけ。


学校へ向かって歩いていく彼の足は止まる事はなく、今ではもう後ろ姿しか見えない。



もう行っちゃう。

まだ行かないで。

だって、……今日は逃げずにやるって決めた事があるんだから。



「なっ、なっ、中畑先輩!」

「ん?」


木の陰から飛び出して声を上げると、足を止め後ろを振り返る中畑先輩。その目に私が映る。


それだけで心臓が破裂しそうになくらい頭に大きな音を響かせる。

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