その瞳をこっちに向けて


でもそこでギュッと両手で握り拳をつくると、更に声を張り上げた。


「おは、おは、おはようございます!!」


それだけ言うと、中畑先輩の横を駆け抜け下駄箱まで走り続ける。その間に「おう。おはよ」という中畑先輩の声が聞こえた気もするが、心臓の音がうるさ過ぎてハッキリとは分からない。


それでも下駄箱で上靴を手に取った時、言えた…という満足感が頭の中を満たしていた。


 そんな満足感を胸に、少しだけ軽くなった足で教室に入ると、待ってましたとばかりに鈴菜が駆け寄ってくる。


「ど、どうだった?」


心配そうにそう訊く鈴菜。それに、ニカッと歯を見せた。


「言えたよ」

「よし!」

「めちゃくちゃ吃ったけどね」

「そんなの別にいいじゃない。今更自分をよく見せようとしたって、もう遅いんだし」



挨拶出来たのは良かったけど、吃った事が少し気掛かりだった。吃ってて変に思われなかったかな?なんて思ってしまっていた。でも、鈴菜のいう通りだ。

今更だけど、思い出せば 私は中畑先輩と初めて話した時から吃りまくってる。

ほんと、今更。

どれだけ自分をよく見せようとしたって、中畑先輩は取り繕った私じゃない私を知っているんだから、もう遅いんだ。

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